[最高の贈り物]-02-
さて、どうしようか。
たばこを一服、煙を吐き出して私は天井を見上げた。
「明日はホームズの誕生日なんだ」
そう嬉しそうに言ったドクターの顔を思い出すと余計に気が重くなる。彼とは短い付き合いではないが、誕生日なぞ祝ったこともない。言ってしまえばその誕生日すら昨日ドクターにたまたま会って話をするまで知ることもなかった。その前に、そもそも誕生日を祝うような間柄ではないのだ、彼と私は。仕事場で顔を合わせる、そしていつも出し抜かれてしまう――。
そこまで考えて変な腹立たしさといつも手柄をもらっている恥ずかしさがこみ上げてきてたばこを灰皿に押し付けた。ノックの音が聞こえたのはその時だった。
「入りたまえ」
そう告げると、いつもと同じように警官が入ってきてさっと敬礼をする。
「レストレード警部、クロムウェル・ロードで殺人です。ご同行お願いします」
「わかった。すぐに出かけよう」
椅子から立ち上がりコートをはおったところでふとある考えが頭を過ぎり、先に出て行こうとした彼を呼び止めた。
「その、君は――普段世話になっている人間に何を贈る?」
「は? プレゼントでしょうか?」
「そ、そうだ。ほら、例えば親御さんだとか」
「ああ、それなら」
彼は少しだけ顔を崩してこう続けた。
「本人が欲しがっているものを」
あまりにも当たり前の答えに私は少々面食らってしまった。――それがわかれば苦労はしないのに!
「あの、どうかされましたか?」
「なんでもない。それより早く現場へ!」
突っ立ったままの彼を急かすと自室の扉を閉め階下へと向かう。馬が蹄を鳴らす音が微かに響いてくる。窓の外をちらりと見ると普段より馬車の台数が多い。きっとかなり大掛かりな捜査になるだろう――。そんなことを考えているとふいに昨日のドクターの言葉がよみがえった。
「よかったら君も来ないかい?きっと彼も喜ぶよ」
せっかくの誘いだったが仕事には代えられない。私は心の中で彼に詫びると、今にも駆け出しそうな馬車へと乗り込んだ。