[RE:BIRTH]-02-
大勢の人で賑わうアテネ市内。
そこのとある不動産屋の前で佇む長身の男。
「どうでしょう? こちらの物件など日当たりもよくて最高ですよ」
「いや、こんなに広くなくていい」
「そうですか。それではこちらなどは?」
……どれも似たようなものばかりだな。これと言って住みたいと思うようなものはない。
そんなことばかり言ってもいられないのだが。
「いい。また来る」
「左様ですか。お待ちしております」
頭を下げて見送ってくれる店員を背にして歩き出す。その時だった。
「不動産など見て一人暮らしでも始める気ですか?」
少し落ち着いた聞き覚えのある声を聞いて振り返る。
そこにいたのはソレント。元「同志」。今は「旧友」。
「なんだ、ギリシャに帰ってきてたのか」
「はい。一ヶ月後、また出発するんですが」
「そうか。ご苦労だな」
コーヒーを口に運ぶと一息つく。
いまだにこの男のことはわからない。海底神殿が崩れてからでもギリシャに帰ってくるたびになぜか鉢合わせる。
もしかして見張られてるのだろうか。
「貴方は、どうなんです?」
急にそんなことを聞かれて顔をあげる。
「どう、とは?」
「お兄さんとうまくいってるのかということです」
「ああ。なんとか一緒に住んでいる」
「なんとか?」
「そうだ。もう終わるがな……」
そう言ってカップの中の揺らぐ水面を見つめる。
なんとか、だ。なんとか今まで我慢してきた。でももう無理だ。あのままあそこにはいられない。
「一人で暮らすつもりなんですか?」
「そうだ」
「どうして?」
「そこまで言う必要はない」
「……そうですね」
そう言って彼は口をつぐむ。
騒がしいカフェの中でここだけがやけに静かで。
どれほどそうしていただろうか。
ソレントがふいに席をたち、荷物をまとめだした。
「私はジュリアン様と約束があるので、これで失礼します」
「ああ」
「それでは」
そう言うとふと考え込んだようなそぶりを見せて。
「貴方もいい加減素直になるべきですよ。――全てはもう、終わったのですから」
それだけ言い残すとやがて雑踏の中へと消えていった。
その言葉に思わず席を立つ。どういうことか、確かめようと思って。
しかし、なぜか追いかけることはできなかった。
「素直に、なっているではないか……」
彼の言ったことに今更言葉を返す。しかしそれは雑踏に消されていった。
ただ、強い日差しに照らされて、まるでここから消されるような感覚だけが残っていた。